名古屋大学人の会
「戦争法案を考える名古屋大学人の集い」の概要
2015年8月29日
戦争法案を考える名古屋大学人の集いが、8月29日13時30分から名古屋大学IB館2階大講義室で行われました。主催は自由・平和・民主主義を愛し戦争法案に反対する名古屋大学人の会で、名古屋大学の教職員、学生、退職者、卒業生、市民にも呼びかけて開催されました。開始時刻前から多くの方が、入り口を迷ったり、受付に列ができるなどしながら参加され、209人が講義室を埋めました。この集いはIWJ(インディペンデントウエブジャーナル)で生中継が行われました。
はじめに会の呼びかけ人で世話人の和田肇教授が挨拶し、この会は愛敬浩二教授と安藤隆穂名誉教授との3人が呼びかけ人となって立ち上げ、現在までに呼びかけ人約150名、賛同者530名になった、今戦争法案だけでなく大学や民主主義に対して危機的状況になっている、この法案が廃案になってもこれらの問題があり、成立したらそれを発動させないことが重要になる、この会はそれにふさわしい活動をしていこうと考えていると述べました。
第1部
基調講演「『安保関連法案』の現段階と反対運動の課題」
基調講演は法学研究科教授の本秀紀さんが、「『安保関連法案』の現段階と反対運動の課題」と題して行いました。講演では、違憲法案であることは決着がついているのに、政権は憲法よりも大事なものがあるとし、立憲主義を軽視していると指摘。
様々な事態が想定されているが、それらは非常に不明確であり、軍事力の行使を政府に任せておけ法案と言えるものだ。アメリカとの約束を守るための対米従属ぶり、核兵器は運ばないと言っているが、法文には書かない、書くと積荷をチェックしなければならなくなるがそれはできないからだ。
自衛隊の中で成立後の活動をシミュレーションしていることが明らかになったが、その中で、軍軍間の調整メカニズムということが書かれている。軍軍というのは米軍と自衛隊のことであり、米軍中心の軍事行動に自衛隊が飲み込まれていく準備が行われている。
今議会制民主主義が機能不全を起こしている。安倍首相は自分が最高責任者だから任せておけという姿勢であり、民主主義でも国民主権でもない。国政に民意が反映していないからこそ主権者が自ら声を上げている。
民主主義の新たな胎動が始まっている。動員型ではなく自分たちの意思で立ち上がり、自分の中から発せられた真摯な言葉で語っている。それが連携しあって大きなうねりを作り出している。彼らは今止めないと自分自身が生きていたくない社会になってしまうという危機感から本気で止めると言っている。
国会内では与党が多数で、60日ルールが適用できるなど成立させる準備を整えている。本当に止めるためには、国民の大多数が反対しているということをこれでもかと可視化する必要がある。与党議員に選挙では危ないと思わせることが必要だ。与党議員事務所に行くとかハガキを届けよう。署名もある。それぞれができることをしよう。集会、デモに参加しよう。自分たちでも。「戦争法案」の帰趨は、日本の平和主義・立憲主義・民主主義の行方を左右すると締めくくられました。
学内外からの発言
「先の大戦を生き延びたものとして」名誉教授 水田洋さん
続いての学内外からの発言では、まず名誉教授の水田洋さんが壇上に上がり、「先の大戦を生き延びたものとして」発言を行いました。水田さんは60年安保の時にデモに参加した。僕は社会契約説のホッブズを研究していたがこれがそうなんだと思った。今年96歳になるが、生きている限り民主主義を守る。あのバカバカしい戦争に生き残ったらそれしかない。二度と戦争を起こさないようにしたい。存立危機事態は安倍首相が合理的に決めるという。それが信用できない。学問を守るためにも安倍政権に反対する、と発言しました。
「研究者としてなぜ戦争法案に反対するのか」国際開発研究科長 伊東早苗さん
続いて国際開発研究科長の伊東早苗さんが「研究者としてなぜ戦争法案に反対するのか」との発言を行いました。伊東さんは研究科長だからこそ勇気を持って呼びかけ人になりますと参加されました。伊東さんは開発途上国に対する開発協力について教えています。開発途上国には民意を反映しない政治が行われている国がある。それを途上国特有の問題と語れるのか?2月に新ODA大綱が閣議決定されたが、非軍事分野での他国軍の支援を可能にした。従来認めてこなかったのは憲法があるからだ。積極的平和主義とは戦争がないだけでなく、構造的暴力を抑止するための協調的な信頼関係を築いている状態をいう。安倍首相のそれとは非なるものだ。積極的平和主義を実現させることに貢献する勇気ある知識人を育成することが私たち研究科の使命だと力強く発言されました。
「日本の民主主義について考える」教育発達科学研究科院生 鵜飼俊二さん
次に教育発達科学研究科の院生の鵜飼俊二さんが、「日本の民主主義について考える」との発言を行いました。安全保障にかかわる運動は国民と政権とのコミニュケーションが断絶したことへの民主的な生き方を目指す人々の憤りだ。民主主義は態度、生き方だ。このような断絶を生んだのは権威的な意思決定だ。どのような生き方をメッセージとして世界に示すことができるのか、21世紀に生きる若い人たちが担っていくべき課題だ。と発言しました。
「街頭宣伝から見えてくるもの」名大卒業生 弁護士 青木由加さん
次に名大の卒業生で弁護士の青木由加さんが「街頭宣伝から見えてくるもの」との発言を行いました。ゴールデンウイークから必死に叫んでも、街の人はよくわからないという感じだった。ところが6月の憲法審査会で3人の憲法学者が違憲であると述べたことから、街の人もそれを受け止め、ビラをうなずいて進んで受け取るようになるなど、態度が変わったことを肌で感じている。市民は考えている、知りたがっている。まだ声を出していない人の決断、行動をつなぐのはメディアの役割。ネットに書き込むことも家族に話すことも、街宣もメディア。コミニュケーションが大事だと発言しました。
「戦争法案廃案に向けた全国と京都の熱気」京都大学教授 高山佳奈子さん
続いて高山佳奈子京都大学教授が、「戦争法案廃案に向けた全国と京都の熱気」について発言しました。高山さんは、名大で非常勤講師をしているので私も名古屋大学人と自己紹介しました。メインは安全保障関連法案に反対する学者の会で、発起人から呼びかけられ参加した。関西のメンバーと毎週金曜日に街頭宣伝を行っている。神戸大の安全保障論の専門家は安全法制には抑止力を高める効果はない、平和学の専門家は憲法九条を広めていくことが日本の使命と発言。学会や労働組合、学術会議などいろいろなネットワークでつながりができ、京都大学人の集いを行った。大事な情報が流れてこない、自分の目で確かめることや人のつながりで得ることが一番信頼できる。まわりの人と情報交換し声を上げていくことが大事と発言しました。
そのあと休憩に入り、休憩時間中には、名古屋大学人の呼びかけ人や当日の集会での発言者の全国での活躍をビデオで紹介しました。
第2部
第2部の冒頭、益川敏英名大特別教授のビデオメッセージが放映されました。続いて、加藤延夫元学長、平野眞一元学長、松田正久前愛知教育大学学長、卒業生でアニメ脚本家で作家の辻真先さんのメッセージが紹介されました。
「辻さんについて」呼びかけ人 榊原千鶴さん
ここで辻さんのメッセージに関連して、司会者の榊原千鶴さんが呼びかけ人の一人として発言しました。日本文学講座の大先輩である辻さんからは、直接、あるいは作品を通じて、多くのことを学んだ。辻さんがテレビアニメの脚本を担当した石ノ森章太郎原作「サイボーグ009」には、一本だけ辻さんオリジナルの作品がある。「太平洋の亡霊」という特攻兵士の話で、最後に憲法九条全文が流される。辻さんの作品のいくつかには、反戦の思いが込められている。太平洋戦争当時を舞台にした作品では、1945年1月の三河地震を取り上げている。地震発生時、被害の実態は、国民には知らされなかった。情報統制は過去のことではない。知る権利、報道の自由の大切さを改めて感じる。また、太平洋戦争末期の沖縄を描いた作品には、「教育するものは最も教育されやすいもの」という一節がある。たった一晩で、鬼畜米英から民主主義に変わった大人たちに対する怒りは、辻さんの中でいまも消えてはいない。教壇に立つものとして自戒の言葉であり、呼びかけ人になった一番の理由だ、と発言しました。
報告「東海圏の大学・学者の運動の現状」世話人 愛敬浩二さん
第2部では「東海圏の大学・学者の運動の現状」の報告を、会の世話人である愛敬浩二さんが行いました。安倍政権が安保法制を実現することは学問に対する冒とくである。大学から声を上げていくことはとても大切。運動の盛り上がりの背景には学者が動き始め、学生も自ら動き連携したことが大きかった。愛知県内では、日本福祉大学、愛知教育大学、名古屋大学、名古屋学院大学、中京大学、愛知大学、愛知学院大学、愛知東邦大学、名城大学、岐阜県では岐阜経済大学、岐阜大学、情報科学芸術大学院大学、三重県では三重大学で有志の声明の発表や有志の会の発足が行われ、「安保法制に反対する若手研究者の会・東海」が動き始めている。動きのないところでは動きを作っていただくことが大切だ。 9月11日には「安全保障関連法案に反対する東海・大学人集会&共同行動」が計画されているので、その呼びかけを行っていただく。と報告され、高木庸太郎さんが紹介されました。高木さんは、社会の中で自分の生き方を考え、学問をやろうと決めたのは教養部時代であり、SEALDsと学者の共同行動に参加して、教養教育を体験していると感じたと話されました。東海地域では大学間のネットワークができていないので、4団体で呼びかけた。集会を1時間行い、名古屋駅で東海大学人の共同行動を行う。宣伝物を配ったり、のぼりや横断幕を掲げ、スピーチなどでアピールする等、創意工夫した参加を呼びかけました。
会場からの発言
続いて、会場からの発言に移りました。理学部の学生から、4月から友人知人と一緒に「日本の軍事強国化をとめる!名大生の会」を作って、戦争法制定や日米新ガイドラインの制定に反対してきた、安倍政権による戦争法の根源に日米安保がある、かつて日米安保に反対し、今再び戦争法に反対している先輩、そして学生や働いている人たちや市民と一緒に戦争法案に反対したいと発言がありました。
文学部を卒業した、愛知大学教授の田川光照さんから、大学で教育研究をしている者は、民主主義にもとることが行われようとしているときにははっきりノーと言わなければならない、愛大は戦後軍国主義的侵略的諸傾向を一擲(いってき)し、平和の新国家を建設するのが建学の精神の一つ、7月に安全保障関連法案に反対する愛知大学人緊急集会を行い、アピールを採択した、SEALDsの活動にならって街頭にも出なければならない、9月11日の共同行動には積極的な参加をと呼びかけました。
次に文化サークル連盟の学生から、表現の自由を制限する安倍首相の動きがある、それは戦前では戦争をしようとするときに行われた、安倍首相は戦争をしようとしていると感じる、安倍政権を許さず戦争法案を止めるために頑張りたいと発言がありました。
法学部の聴講生から、学内で戦争法の強行採決を許さない集会を開いた、沖縄で米軍ヘリが墜落し、自衛隊員が乗っていた、安倍政権はアメリカ軍と一緒に戦争できる準備をしている、自衛隊を南シナ海と中東に派遣することを考えている、これを止めていきたいと発言しました。
最後に、DemosKratiaの共同代表の胡桃沢拓也さんから、若い人たちへの声かけの中からつながりができ、8月23日に有志デモを行い、SEALDs東海を結成しようということになった、明日30日にはSEALDs本部がカンパの中から費用を出して貸し切りバスを運行して、名古屋と三重から40名が国会前の抗議行動に参加することになった、おおきいうねりを名古屋からつくって廃案にしたいと発言がありました。
憲法出前講師団の紹介
次に、東海地区の憲法出前講師団の窓口を担当している、法学研究科の大河内美紀さんが紹介され、10名でも20名でも憲法のことを勉強する会を開きたいと言うことであれば、申し込んでほしいと説明がありました。
集会のまとめと行動提起及び「戦争法案に反対する声明」の採択
最後に、世話人の安藤隆穂さんから声明の提案と行動提起がありました。声明の提案に先立って、安藤さんからは次の発言がありました。
今日、200人を超す方に集まっていただいた。賛同人は500人を超え、呼びかけ人が150を超えた。 (これは大変な力であり私たち自身をほめたい。) これだけの運動が盛り上がっていると言うことは平和に対する危機意識がいかに深刻かと言うことだ。これほどの反知性主義的な政権はいまだかつてなかった。その意味でも、大学人こそが立ち上がらなければならない。
数年前の総理大臣が漢字の読み方を間違えたが、今は、戦争を平和、全体主義を民主主義、隷属を自由、基本的人権を国民の義務と読ませようとしている。70年談話で安倍首相は、戦争を経験していない若者が責任を問われないようにしたいと言ったが、経験しなかったら歴史に参加してはいけないのか、それは歴史に対する侮辱であり、歴史研究者のはしくれとして怒りを覚える。
ここに集まっている大学人は、知性を社会とのつながりをよく自覚し、点検し直し、運動して行かなくてはならない。私たちがここで声を上げる重要性について中学時代の友人からのメールを紹介したい。「メディアを通じて名古屋大学が立ち上がったことを知った。安保法案廃案のためにがんばってほしい。戦死した叔父の墓の前で、叔父の死を将来の子供たちのために無駄にしてはならないと強く思った。」突然こうしたメールをもらって元気になった。これからも社会とのつながりを意識しながら名大人の会の一員としてがんばっていきたい。
名大は日本の知性の鍵を握る大学であり、他大学と連帯し知性を磨き直していく責任はとりわけ大きい。全国のどの大学も過去の戦争を振り返って、戦争に加担してしまった責任と反省に立って立ち上がった。名大はすでに1987年に平和憲章を制定している。その一節を読み上げたい。
「いかなる理由であれ、戦争を目的とする学問研究と教育には従わない。そのために、国の内外を問わず、軍関係機関およびこれら機関に所属する者との共同研究をおこなわず、これら機関からの研究資金を受け入れない。また軍関係機関に所属する者の教育はおこなわない。」この平和憲章の言葉に立ち返って名古屋大学人として活動していきたい。その思いを込めた声明案を準備した。ここに読み上げるので賛同していただきたい。
声明案が読み上げられた後、満場の人がプラカードを掲げ賛意を示し、声明は採択されました。