名古屋大学人の会
日本学術会議への政治介入にかかわる声明
2020年10月12日
「自由・平和・民主主義を愛し戦争法制に反対する名古屋大学人の会」
世話人・呼びかけ人有志一同
名古屋大学の基本理念を掲げる学術憲章は、「自由闊達な学風の下、人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて、人々の幸福に貢献することを、その使命とする」と宣言しています。そして、大学運営の基本方針として「構成員の自律性と自発性に基づく探究を常に支援し、学問研究の自由を保障する」と掲げています。いま、この自律性、自発性が危機に瀕し、学問研究の自由が危険にさらされています。
日本学術会議の第25期新規会員を任命する際に、菅義偉内閣総理大臣は、同会より推薦を受けた6名の研究者の任命を拒否しました。日本学術会議元会長の大西隆氏の証言によれば、このような首相官邸による同会の人事案への介入は、実は安倍政権時代の2016年からすでに起こっていたといいます(*1)。菅政権は今回、法解釈を秘密裏かつ恣意的に変更した安倍政権のやり方を踏襲しながら任命拒否を行いました。しかも判断の根拠についてはっきりと説明せず、任命の過程についての説明も、推薦リストを見ない、見た、などと二転三転させています(*2)。
これは日本学術会議への政治介入であり、民主主義と学問の自由を踏みにじる暴挙です。研究者の学術研究だけに関わる問題ではなく、大学の教育や運営にも関わる問題であり、さらにいえば幅広い市民活動の自律性や自由に深刻な影響を与える問題でもあります。現在、優に100を越える多数の学問分野の学会(*3)、14の大学の学長や研究科長・関係者たちが、抗議の声明やメッセージなど出しています。それだけでなく、菅義偉内閣総理大臣の不当な措置に対する反対や抗議の声は、大学院生、法曹、医師、映画人、ジャーナリスト、文学者、市民のグループにも広がっています(*4)。問題の影響が、学術の世界に留まらないものであることを多くの人々が感じ取っていることを語るものだと言えましょう。
任命拒否を受けた6名の中には、安全保障関連法や共謀罪に反対した研究者も含まれており、政府への批判的な言論活動が拒否の理由となっているのではないかと推測する報道もあります(*5)。理由を明確に示すことなく新会員の任命を拒否することは、秘密とされた理由をめぐって憶測を呼びます。憶測は、忖度へとつながります。そして学術の、言論の、萎縮が始まるのです。
6名の任命拒否は、日本学術会議の新規会員任命に関わる小さな出来事に見えるかもしれませんが、そうではありません。これは検事長の定年延期問題の際に典型的に現れたものと同じ、法解釈の安定性をないがしろにしながら、人事を掌握することによって支配するという強権的な圧政の一部です。この政治は、政権と意見を異にするものの存在を許しません。自由で闊達な学術・言論の空間を抑圧する政治を、これ以上進めさせてはなりません。
私たちは、菅義偉内閣総理大臣に対し、今回の日本学術会議新規会員任命のプロセスについて厳しく事実を解明し、拒否理由の明示をし、任命拒否を撤回するよう求めます。
*1 「元会長、官邸関与を証言 学術会議人事、16年以降」『時事ドットコムニュース』2020年10月9日。
*2 「菅首相、推薦リスト「見てない」 会員任命で信条考慮せず―学術会議会長と面会も」『時事ドットコムニュース』2020年10月9日。「菅首相、「6人排除」事前に把握 杉田副長官が判断関与―学術会議問題」『時事ドットコムニュース』2020年10月12日。
*3 「学術会議の任命拒否、広がる抗議 90超の学会など声明」『朝日新聞』デジタル2020年10月8日。「6人任命拒否を「憂慮」 自然科学系93学会が緊急声明」『朝日新聞』デジタル2020年10月9日。
*4 安全保障関連法に反対する学者の会ウェブサイトによる。
*5 「学術会議推薦 首相、任命せず 105人中6人 政府批判理由か」『毎日新聞』2020年10月2日。
以上